ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから Netflixの傑作青春ラブコメを徹底解説!

勝手ながら映画解説
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どうも、けんせです。

今回は今話題になっているこちらについてお話していきます!それがこちら!

ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから

こちらは現在Netflixで配信されているNetflixオリジナル映画!監督のアリス・ウーは2004年の作品「素顔の私を見つめて…」以来およそ15年ぶりの長編2作目!キャストにはリーア・ルイスダニエル・ディーマーアレクシス・レミールといった若手俳優たちが出演しています!

配信以降、絶賛が相次いでいる本作品。僕も先日見て非常に感動しました!そして、その中にある膨大な映画や文学の引用に興奮しました。

そこで今回は、もう思いっきり解説しています!恐らくほとんど取りこぼしはないと思うほど徹底的にやりました!この映画に使われている作品を知ると、より映画が堪能できるはずです!

ネタバレしまくってますので未鑑賞の方はご注意ください!どうか最後までお付き合いください!

あらすじ

アメリカの田舎町スクアヘミッシュに暮らす中国系アメリカ人の女子高生エリー・チュウは、寡黙で友達もいない。田舎の閉鎖的世界でバカにもされている。母を事故で亡くし、家で引きこもりがちな父に代わり駅でバイトしたり、成績優秀で文才のある彼女はクラスメイトのレポート代筆で小遣い稼ぎをしていた。ある日、アメフト部の補欠ポールからある代筆を頼まれる。それは、クラス1の美女アスターへのラブレターだった。渋々ながら代筆を請け負うエリー。実は彼女は、アスターのことが好きだった。それを隠し、ポールのフリをしてアスターへのラブレターを書いているうちに、状況はどんどん複雑になっていってしまい…

 

 

この映画、どうだった?

★★★★★★★★★

傑作の青春ラブコメ!本当に素晴らしい!

膨大に出てくる作品や言葉もいちいち面白い!

メチャクチャ笑いました!それでいてすごくいいラスト!泣かされてしまった…!Netflixの新たなる傑作の誕生です!

ドンドン困っていく状況…しかし面白い!

この映画は、アリス・ウー監督の実体験から来ているそう。レズビアンであった監督は大学時代に、一番の親友の男性がいました。彼と仲良くしていると、彼の彼女がものすごく嫉妬してしまって、結局3人はバラバラになってしまったんだとか…切ないですね。

そんな体験をもとに作られた本作も、どんどんドンドンおかしな状況に!

ラブレターの代筆をやっていくうちに、アスターの素顔を知り、より深く好きになっていくエリー。しかしそれはポールにも誰にも知られてはいけないんです。ポールがアスターを好きなのもありますが、田舎町というのもあり中国系の彼女は居場所がなく、カトリックの街であるのでレズビアンはさらに生き辛くなるから。田舎町に暮らす女の子の話なので、「レディ・バード」にもすごく近しいものがありますね(劇中にもサクラメントの地名が出てきてました)。

アスターは貰ったラブレターを読んでいくうちに、書いた人のことを好きになっていく。ポールはポールで勉強していないから、いざデートしたらボロが出そうになってしまう!それをカバーしようとしてるうちに、エリートアスターが仲良くなっていく!

圧倒的に困った状況に追い込まれ続ける展開が、もう面白い!共感性羞恥じゃないけど、ハラハラしました(笑)

他にも随所におかしすぎるのが良い!アスターの彼氏で街一番の御曹司(砂利産業)トリッグが、ひたすらに何も知らない超ポジティブ野郎だったり、試合でポールがタッチダウンを決めたのは実に15年ぶりという弱小ぶりすぎたり…凄まじいコメディです!

紡がれていく友情も素晴らしい!

アスターへの最初のラブレターの返信で、「ベルリン・天使の詩」の一説がバレたことで始まる、エリーとポールの特訓。ここから紡がれていく2人の友情も段違いに素晴らしい!

 

ポールはちょっと抜けてるアメフト男子だと思っていたら、バカにされてるエリーを庇ってくれる好青年!酔っぱらったエリーを介抱もしてあげてましたね。しかもアスターの為にしっかり勉強していく努力家。さらにエリーの自転車と登下校するうちに、どんどん体が鍛えられて部活でレギュラーになるまでなっていく!なんだこの超良い奴!あと、謎にキスできる自信満々なのも笑いました。

そんなポールと話すうち、どんどん心を開いていくエリー。自らの境遇や家族についても話し、どんどん打ち解けていきます。エリーの家で父親と一緒に映画を見てるのは面白いですね!ポール一人、超楽しそうに見てるのが何とも言えません。あと、ポールが考案したタコス・ソーセージ2人が黙って旨そうに食うのもいいですね!食べてみたいですね。

さらに、アスターとエリーも仲良くなっていくのもいいですね!アスターがしっかりエリーのことを見てくれていたのは流石ですね。美女なだけじゃなく、心まで美しいとくりゃ…しかもホラー映画で爆笑してるなんて天使ですね(笑) アスターへの恋心とラブレターの代筆のことを隠しながらも、アスターとエリーだけのドライブのシーンは、とても心落ち着きます

徐々に進行も深まっていく中、ポールはエリーにも惹かれてしまい、試合後キスをしてしまいます。さらにその現場を、アスターに見られてしまうんです。しかも、ここでエリーの好きな人がアスターであると気づいたポールは愕然とし、「大罪だ。地獄に落ちる」というのも強烈です。彼はクリスチャンなので、同性愛というものが信じられないのが分かると同時に、それまでの親友を拒絶してしまうんです

続いて映される、サルトルの言葉。「他人とは地獄である」。この友情が崩壊してしまうのは本当に心が痛いです。

しかもこの後、さらにこれよりヤバい事態に!もう本当にハラハラしました…だからこそ、ラストは泣けるんですよね。

映像も見事!

この映画は映像による演出も大分凝っているのが分かります!

タイトルの「The Half of It」も思いっきり画面の下にめり込んでましたね(笑) 最初見た時、パソコン故障したかと思いました。すいません。このタイトルの通り、劇中には何度か半分だけ写されているものが何度かありました。

この映画はコメディなので、様々なところで笑いを誘われます。ポールとアスターの2回目のデートのところは、ポールの顔が最高でした!他にも、懺悔室でやり取りをするとき、一回目は神父はいなかったのに、二回目はしっかり居て困ってて爆笑

また、この映画は説明シーンのようなものがあまりなく非常にテンポがいいのがまた素晴らしい。ポールの運動の上達ぶりのところや、ひそかに代筆レポートを渡していくシーンなど、洒落た編集がされてますね。

さらに、空間の使い方もいい!教会でチャットする所が特に良かったです。初めにエリーのアップでアスターとやり取りしてるところから、今度はアスターが不意に後ろを振り向くシーンに。するとフォーカスがアスターから移り、ポールの笑顔が。突如カメラがパンアップして、そこにはオルガンの前に座り、2人を見下ろすエリーが。ここは非常にやられましたね。他にも、エリーとポールの最初の出会いのシーンも、横から撮ることで物理的にも精神的にも距離があるのも分かりますし、それが縮まっていく物語なんだというのも分かります。

個人的に一番唸ったのは、エリーとアスターが温泉のようなところに入ってるところ!2人がそれぞれ水面から顔を半分出しているのですが、その水面には映ったそれぞれの顔が!荘厳で何とも美しい、まさしく「The Half of It」だ!と感動しました!ここについては後でまた触れます。

他にも、修羅場のシーンの後の三人の対比は印象的でしたし、終盤エリーとアスターがもう一度出会うシーンで、アスターが出てきたお店の看板が「The Turning Point」なのは笑いましたね。そしてラスト、ポールがエリーの乗っている電車を追いかけるシーン!本当にいい映画だなぁ…とつくづく思いました!

 

 

勝手に映画解説

ここからは、この映画に引用されていた膨大な映画や文学についてなるべく逐一解説していきます!

その前に…

あの、これTwitterでも言ったんですけど、このエリーのお父さん、映画評論家の町山智浩さんに似てませんか?

 

見ててマジでそっくりだと思いました(笑) もちろん違いますよ(笑) お父さんを演じられているのはコリン・チョウという俳優さんです。かっこいい…!

しかし本当に似ている…しかも映画めっちゃ見てるし…これひょっとして、町山さんがモデルになんじゃないか!?

失礼いたしました(笑)

凄くタランティーノの様な作品⁉

僕はよく、オマージュがたくさん施された作品を見ると、「タランティーノや!」と思ってしまう悪い癖があります。だけど、今作もそう感じてしまいました!

もちろん、文学や映画がそもそも出てきているのでそりゃそうなんです。この映画は、ストーリーの一部をこのような作品群を使うことによって、ストーリーを進行させるだけでなくそもそもの元ネタにある意味からもキャラの心情や背景等に昇華させてるんです。ですが他にも、直接作品は出てなくとも、いろんなところで「この作品から」とかが顕著にあるんです!

それらを1個1個徹底的にやっていきたいと思います!

饗宴

この映画のタイトル「The Half of It」は、映画冒頭に出てくるように、もともとの人間は背中合わせの一体だったのが、神の嫉妬によって二体に切り離されたことで、互いにかつて自身の半身だった失くした相手、これを求めるのが愛だということ。

これは、プラトンの「饗宴」という対話篇のなかで最も有名なもので、愛に対する推論なんです。配偶者のことをbetter halfというのですが、それはここから来ているんです。

シラノ・ド・ベルジュラック

こちらはフランスのエドモン・ロスタンによる戯曲。宝塚などでも上演されていて知ってる方も多くいらっしゃる作品でしょう。

シラノ・ド・ベルジュラックは、実は実在の人物で、剣術家であり作家であった人物です。彼の作品で有名なものは「月世界旅行」。これは、ロケットによる月旅行を描いた最初の作品で、SFの先駆的な作品になります。

この戯曲は、彼からインスピレーションを得て作られました。簡単にあらすじを。

シラノは優秀で多才な男ですが、その恵まれない容姿(鼻)のため女性に敬遠されていました。片思いの相手ロクサーヌは、シラノの友人の美青年クリスチャンに思いを寄せていました。クリスチャンは容姿は整っていますが、文学的な教養が足りないことで彼女に愛を伝える言葉すら知りませんでした。そこでシラノは、ロクサーヌに宛てた恋文をクリスチャンに渡し、それをクリスチャンのものとして送るよう提案し…

はい、もうまんまこの映画ですね!もともとアリス・ウー監督は、実体験をもとに脚本を書こうとしたそうですがうまくいかず、その時にこの戯曲に出逢い、参考にしたそうです。しかしこれが見事に功を奏してますね!

戯曲に、バルコニーでシラノがクリスチャンの代わりにロクサーヌへの愛を語り、その言葉をクリスチャンの言葉と思い、ロクサーヌはクリスチャンを好きになるという場面があります。この映画の、ポールとアスターの2回目のデートのシーンは、まさにこの場面の現代版ですね!エリーが送ったメッセージを、ポールの言葉と捉えて好きになっていくアスター。「僕(私)も、普通の女の子じゃない」のメッセージは、なんかこう、グッときますね。「シラノ・ド・ベルジュラック」の方も、ロクサーヌがだんだん愛の言葉を言っている人を好きになっていくんです。でもそれは、シラノの本当の気持ちなのに、クリスチャンだと思ってしまっているのが切ないですね。

ちなみに、この戯曲は度々映画化もされています。1950年に映画化されたものは有名で、主演したホセ・フェラーアカデミー賞主演俳優賞受賞しています!1990年のものもアカデミー賞ノミネートしています!また、1987年には舞台を現代に置き換えたスティーブ・マーティン主演愛しのロクサーヌ」もあります。また日本にも、舞台を時代劇に置き換えた名優三船敏郎主演或る剣豪の生涯」という映画もあります!これは僕もこの機会に見てみようと思います!

 

ブレックファスト・クラブ

これは1985年ジョン・ヒューズ監督の青春映画!これは、アメリカのスクールカーストを暴露した作品です。

全く接点のないバラバラの5人の高校生が、罰を食らい図書館で課題を課されて1日過ごします。一緒の空間で過ごす中で、彼らはそれぞれ心をさらけ出し、理解し合い、心を通わせていく物語。

この映画でも、スクールカーストが如実に描かれていますし、その中でそれぞれの心の内が見えてくるのも重なりますね。アスターは特にそうですね。美人で街一番の御曹司の彼氏がいるカースト上位の女性に見えますが、その中身が実はカースト下位にいるエリーと似ているところがあります。また、アメフト部補欠のバカでいい奴なポールも、実は家庭では何も言えないような立場にいるといったところですね。見た目ではなく、その本質が重要なんだということですね。

この「ブレックファスト・クラブ」は、後の様々な学生ものの作品に影響を与えています。テレビドラマGlee/グリー」もそうでしたね。あと最近の映画だと「ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル」もまさにこれでしたね。

スクリューボール・コメディ

スクリューボール・コメディは、1930年代初頭から1940年代にかけてハリウッドで盛んに作られたジャンルのコメディ映画住む世界が異なる男女のラブ・ロマンスや常識にとらわれない登場人物、テンポの良い洒落た会話、次々と事件が起こる波乱な物語が特徴の映画です。

このスクリューボールとは、野球の変化球の一種で、シンカーのこと。スピンがかかりどこへ飛ぶか予測がつかないボールですね。突飛な登場人物が登場することからこの名が採られました。

代表的な作品は1934年フランク・キャプラ監督作或る夜の出来事」。これがスクリューボール・コメディの登場となった作品です。他にも、1938年ハワード・ホークス監督作赤ちゃん教育」も有名です。

この映画では、「フィラデルフィア物語」と「ヒズ・ガール・フライデー」が劇中に登場してます。これらはどちらも1940年の映画で、どちらにもケイリー・グラントが出演してます。ややこしいですね。

フィラデルフィア物語」は、キャサリン・ヘプバーンがスター女優となった作品。彼女が演じるお金持ちのステイシーは、「不可侵のトレイシー」と言われるほど、誰にも心を開かない女性。新たな男性と結婚しようとしていると、ケーリー・グラント演じる元夫がヨリを戻そうとしておかしな方向へ展開していきます。

ヒズ・ガール・フライデー」は、ハワード・ホークス監督の代表作。ケーリー・グラント演じる新聞記者のウォルターが元妻で新聞記者のロザリンド・ラッセル演じるヒルディと、もう一度一緒に仕事をしようとする物語です。

この二つの物語に共通しているのは、女性が非常に頭がよく、性格も強く、男性に全然負けない女であるということ。この背景として、実はアメリカでは1920年代ほどから女性の地位が向上していってたんです。大学出の女性も増えていった中、就職先は依然としてなかったんです。そこで一番最初に女性に対して門戸を開いたのがマスコミ関係で、女性の新聞記者が誕生したんです。そして第二次世界大戦が始まったことで、女性の社会進出はさらに進んでいくんです。そんな社会の中、プレイボーイな男性が非常に優秀な女性に恋をする話や、逆に高飛車な女性が恋に落ちる話スクリューボール・コメディの型になり、女と男が喧嘩し同等に関わっていくものが流行していったんです。

ところが戦後、このスクリューボール・コメディは姿を消します。1945年以降、女性に対する価値観が急に退化することになります。女性は家で家事や子育てをするものだというものになってしまうんです。

ここで何故、このスクリューボール・コメディが使われているのかというと、「ハーフ・オブ・イット」がそもそもスクリューボール・コメディを基にしているからです。

スクリューボール・コメディの成り立ちは先程の通りですが、元々の起源はシェイクスピアの喜劇から来ています。「じゃじゃ馬ならし」「空騒ぎ」「夏の夜の夢」とかいっぱいあります。この、数組の男女たちが互いにあの人が好きやあの子と別れるといった、くっついたり離れたりする可笑しさ、これが原点なんですね。特に「フィラデルフィア物語」は「じゃじゃ馬ならし」に非常に似ています。

ちなみに、NTL2020では夏の夜の夢が今年上映予定!

この「ハーフ・オブ・イット」も、それぞれがあっちが好きでこっちが好きで、こっちがくっついてあっちもくっついて、といったおかしなことになっているのはこのスクリューボール・コメディの面白さがあるんです。

また、「フィラデルフィア物語」のステイシーは心を閉ざしている人物でもあるので、それがまたエリーとも重ね合わされているんですね。

ちなみに、「ヒズ・ガール・フライデー」はタランティーノのお気に入りの映画でもあります!

出口なし

これは劇中で、ジャセルチャップ先生でいいのかな(Mrs.Geselschapが読めません…)、が授業でやっていたり、エリーとポールの特訓でも、引用としても出てきた、フランスの哲学者サルトルの戯曲です。

これは1944年フランスがドイツに占領されていた時に書かれたものです。戯曲を簡単に大分端折って説明します。

ガルサン、イネス、エステルという男一人女性二人の三人は、死んで地獄に落ちます。ところがそこは、平凡な部屋でした。そこは彼らが、自らの罪を告白し合い互いに拷問するための部屋であることが分かってきます。地獄に落ちたことを認めない三人でしたが、やがてそれぞれの人生が語られます。ガルサンは女遊びがひどく妻を虐げ、軍を脱走した男、イネスは男性を嫌悪するレズビアンで、人を操ることにたけたサディストであり、従兄夫婦と同居しながら数々の酷いことをした女、エステルは美しい女性で夫がいながら不倫を重ね、不倫の末に出来た子どもを窓から投げ捨て、子どもの父親を自殺に追い込んだ女であることが明らかになっていきます。三人は互いに苛立たせ合います。どうにか部屋のドアを開けようとするも、ドアが開いても外に出られない。さらに罵り合い、嘲り合い、騙し合いが続く中、ガルサンは「地獄とは他人のことだ」と語ります。罵倒は続きついには殺し合いになるも、すでに死んでいる彼らは死ぬことがありません。この部屋に永遠に閉じ込められると聞いたエステルは、笑いだします。他の2人も笑います。長き笑いの後、ガルサンは言います。「さあ、続けようか」

…凄い話ですね。とんでもない戯曲ですね。

「ハーフ・オブ・イット」は、この戯曲の三人の関係性ともリンクしていますガルサンはポールですし、イネスはレズビアンでもあることからエリーエステルは美しい女性なのでアスターですね。アスターとエステルに関しては名前がまんまそっくりです。多分ここからでしょう。さもなきゃアリ・アスターでしょう(笑)

戯曲も段々と三すくみになっていきます。映画の三人も三すくみから抜け出せなくなっていきますね。コミカルに。

また、ポールは勉強していく中で「出口なし」を知り、エリー自身が「他人は地獄だ」と思っていることに気づき、自らの家庭環境や夢を語ってエリーの心をほぐす、というものにも繋がっていくんです。

また、エリーの同性愛に気づき愕然としたポールが思わず「地獄に落ちる」と言ってしまうのも、切なくも強烈で、まさに「出口なし」になってしまうんです。そこにサルトルの文字が再び出てくるのは、深いですね

ただ、「ハーフ・オブ・イット」の方は、田舎町からそれぞれが自分の道を歩いていくことになります。狭い世界から抜け出すんです。だからこそいいんですね。

日の名残り

この映画の中で、エリーがアスターを本当に好きになるシーンで出てくる作品です。エリーが廊下で落としたものを拾っていると、アスターが手伝ってくれて、ふとエリーの本を見て「日の名残りね。私も好きよ。主人公の抑えた感情と隠しきれない思いの描写がいい」と言います。

日の名残り」(The Remains of the Day)は1989年に刊行された日系イギリス人作家カズオ・イシグロの小説で、1993年ジェームズ・アイヴォリー監督アンソニー・ホプキンス主演で映画化されました。

物語は、1956年を舞台に、執事スティーブンスの1920~30年代の回想と現在が綴られます。かつての主人であるダーリントン卿の下で共に働いていた元女中頭のミス・ケントンに会いに行くスティーブンスは、その行程の中、かつてミス・ケントンに抱いていた想いを伝えなかったこと、ナチス・ドイツの危険を承知でいながら元主人に何も提言しなかったこと等を回想し、執事として生きる中で心を露わにしなかったことで、自分の人生が台無しになってしまったと気づくというもの。日の名残りというのは人生の終わりのことです。だけど、人生の終わりに気づけて良かったというものでもあるんです。

「日の名残り」は、エリーとアスターの初めての共通点なだけでなく執事スティーブンスとエリーが重ね合わされています。エリーもまた、他人に心を開かず一人ですからね。

ちなみに、「日の名残り」は非常に面白いので、見たことない方は是非!

カサブランカ

この映画の中で最初にお父さんが見ている映画です。娘が喋ろうとしてると、「山場ベスト・パート」と遮ってましたね。

カサブランカ」はおそらく説明不要なほど有名な映画ですね!名作と謳われ、その名台詞「君の瞳に乾杯Here’s looking at you, kid.)」は一度は聞いたことがあるでしょう!しかも、この映画の製作背景とかもぶっ飛んでて面白く、話し始めたら止まらなくなります。なので、本作に使われてるところだけ解説します。

あれは、実はラストシーン。ハンフリー・ボガート演じるリックが、かつての恋人であるイングリット・バーグマン演じるイルザと彼女の夫を、無事に亡命させてあげるシーン。過去の痛みを乗り越え、2人を見送るリックに対し、警察署長と2人で「美しい友情の始まりだな」と言い、物語が終わるんです。

もちろんこの三角関係も影響を与えていますが、なによりこのラストの「美しい友情の始まりだな」から、「ハーフ・オブ・イット」が始まっていくんです

ベルリン・天使の詩

これもお父さんが見ていた映画。代筆を請け負ったエリーが、手紙を書いてる時に見てましたね。

ベルリン・天使の詩」は1987年に作られた、ヴィム・ヴェンダース監督作品の中でも傑作です。

守護天使としてドイツのベルリンの人々を見守ってきたダミエルは、自分も人間のように人を愛してみたいと思い、永遠の命を捨てて人間になってベルリンに降り立つという物語。

愛を知らないダミエルが、エリーと重ねられてますね。ここで「渇望している。愛の波に満たされるのを」というセリフが出てきます。まさにエリーのアスターに対する思いと一致しています。だからこのセリフをそのまま手紙に書くんです。しかもその返信が「私もヴィム・ヴェンダース好きよ。でも丸パクリは駄目」と来たもんだ!やはりエリーとアスターは互いの片割れかもしれない!

この返信にポールはへこんでましたが、エリーは「試合開始」と意気込みますね。どこまで彼女と通じ合えるのかをワクワクしてる感じがしますね。

オスカー・ワイルド

エリーがポールのラブレターを代筆し手渡した時、唐突にこの文字が出てきます。

‘‘In love,one always starts by deceiving oneself…and end by deceiving others.That is what the world calls a romance.’’ -OSCAR WILED

…カッコつけて書きましたが、訳すと「自分を欺いて始まり、他人を欺いて終わる。それが恋愛だ」というオスカー・ワイルドの名言が出てきますね。

オスカー・ワイルドアイルランド出身の詩人・作家。一番有名な作品は詩劇「サロメ」ですね。

彼は多彩な文筆活動をしていましたが、同性愛を咎められて収監されています。この映画も、エリーはレズビアンで、しかも街はカトリックで認められない中、この言葉は重く来ますね。

あのインド映画

これは、エリーとポールが一緒に見ている映画で、電車に乗って去っていくヒロインを主人公が追いかけるのを見て、エリーとポールの反応が対照的なシーンです。ポールは感動して、エリーは冷ややかにバカにして。

あの映画は一体何かというと、「Ek Villain」というインド映画!しかも、あのシーンだけならラブロマンスっぽいと感じるかもしれませんが、邦題は「野獣一匹」。実はこれ、イ・ビョンホン主演の韓国映画「悪魔を見た」のインド版リメイクなんです

「悪魔を見た」は、婚約者を殺された警察官が犯人の男を見つけだします。しかし彼は逮捕せず、半殺しの目に合わせて生かしておくんです。犯人にGPSを取り付けて。犯人がまた犯罪を犯そうとするたびに現れて、再び容赦なく嬲り続けるという、とんでもなくバイオレントな作品です!

 

このインド版リメイクではさらに強烈!主人公グルマフィアの殺し屋で、冒頭に借金の取り立てを行うんですが、借金している男をその弟と母親の目の前で焼き殺す!どんな主人公だよ!その主人公を、警察で裸に逆さ吊りで拷問されているところを見て、一目惚れ(⁉)したヒロインのアジャは、彼を「悪役さん(Ek Villain)」と呼んでいるんです。そうです。これがタイトルです!しかもこの彼女、映画冒頭で殺されるんですよ!あの電車のシーンは回想なんです。

そんな彼女、父親が実は教会の牧師なんです…そう、なんとアスターの元ネタです!どんなところから取ってきてんだよ⁉わけわかんねぇ!

何故この映画を監督が知っているかというと、実はこの「Ek Villain」、アメリカでは配信されていたんです。それがきっかけで監督はこの映画を見たんでしょう。田舎町の家でなんでこれを見てるのかというと、そういう状況な訳です。

しかも、調べてみたらなんとこの映画、先程の「野獣一匹」という邦題で日本でも上映されたんです!2015年インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパンで一回だけ上映されてるんです。そんなの知らないよ!(笑) ただ者じゃない!今度から僕もちゃんとインド映画も追っかけます。

あと、この映画の概要を知ったのですが、かなりハチャメチャでデタラメ過ぎなんじゃないかと思ってしまいました。この電車のシーンだけお話します。

その後付き合うようになったグルとアジャですが、彼女が突然別れを告げるんです。実は彼女は不治の病で余命が長くないんです。「あなたを悲しませるからもう一緒に入られない」と言い、お父さんと一緒に電車に乗り込みます。それをグルは追っかけるわけなんです。どこまでも。「ハーフ・オブ・イット」を見た人はそう思ったでしょう…と思いきや、どこまでも追っかけないんです(笑) 途中で休んじゃう(笑) で、ホームの途中で休んでいると、アジャが向こうから帰ってくるんです!なぜ帰ってきたのかというと、お父さんが非常停止レバーを押して電車を停めたから!問題すぎる(笑) しかも、ムンバイの良い病院でその不治の病が治っちゃう(笑) いい加減にしろ!!!

…こんな感じです。これ以上書くとマジで長くなるので、もし知りたい人いたらコメントで連絡ください(笑)後日追記します。

タレンタイム 優しい歌

これは学芸会のシーンです。強制参加のため、止む無く出場することになったエリー。家で一人練習しているのを、外で聞いてるポール。いざ本番になると、いつもエリーをいじめていたグループがピアノに細工をし、音が出ない状態に。冷める観客に対し、後からやってきたポールがギターを借りてきてエリーに渡します。「君の曲を聞かせて」と。エリーの披露した曲は見事に観客を鷲掴みにし、拍手喝采を浴びる、という良いシーン。

これは、あの伝説の映画「タレンタイム 優しい歌」のシーンですね。この映画は、今は亡きマレーシアの女性監督ヤスミン・アフマド代表作にして遺作

タレンタイムという校内音楽コンクールに挑戦する高校生たちの青春映画。民族も宗教もまるで違う彼らが、それぞれの葛藤を乗り越えていこうとする、本当に優しく感動的な映画です。僕も何度も見てますが、最後はもれなく号泣してしまいます。サントラも即購入しました。

この時のエリーの服の非常にセンスあるアジア系の感じポールの抜群のセンス)やその展開画の構図なんかも、この映画から来ています。

ちなみに、「タレンタイム 優しい歌」は、現在「仮設の映画館」で5月31日21時まで見ることが出来ます!非常に素晴らしい、生涯ベスト級の作品です!詳しくはこちらから!

愛のむきだし

クライマックスの教会のシーン。トリッグのプロポーズに対し反対するエリー。そこから「コリントの信徒への手紙一」13章4節を言い、さらに自分の言葉でも愛を語ります。

まずは、この「コリントの信徒への手紙一」13章4節はこういうものです。

‘‘愛は寛容であり、愛は情深い。また、ねたむことをしない。愛は高ぶらない、誇らない、’’

これが象徴的なのは、園子温監督の傑作「愛のむきだし」で満島ひかり演じるヨーコの朗読の名シーンです!13章すべてを説く、圧倒的なシーンでした

愛とは何かを説いた、非常に有名なものなんです。

そして、エリーはその説を用いながら、自らの言葉で愛を語るんです。

‘Love is messy and horrible and selfish…and bold.’’

愛は厄介で、おぞましくて、利己的、それに大胆」と、このように見つけます。愛は自分の片割れを見つけることじゃないと気づくんです。

愛は努力し、手を伸ばし、失敗すること。いい絵を台無しにして、すごい絵を描くことなんです。

卒業

そして、その教会のシーンは「卒業」のワンシーンです。1967年マイク・ニコルズ監督ダスティン・ホフマン主演の、これまた傑作の青春恋愛映画です。

大学を卒業し田舎に帰ってきたベンジャミンは、ミセス・ロビンソンと不倫関係を結んでしまいます。大学院への進学も決めかねている彼は、両親の提案で幼馴染のエレーンとデートをします。エレーンはミセス・ロビンソンの娘でもありました。エレーンの一途さに打たれるベンジャミンですが、ミセス・ロビンソンに脅され自ら不倫関係をエレーンに告白し、ベンジャミンを追い出します。エレーンを忘れられないベンジャミンは追いかけます。そんな時、エレーンは別の男と結婚させられることを知ります。

そして、映画の終盤はこの「ハーフ・オブ・イット」と同じく結婚に反対する所になるんです。当時の結婚式では、この結婚に反対がある者がいれば名乗り出て告白することが出来たんです。これを、結婚式ではないですが同じくこれをやって見せたんです。

「卒業」では、ベンジャミンとエレーンは教会を抜け出しバスに飛び乗ります。バスで後部座席に座ります。これからが2人の人生のはじまりですから、真っすぐ前を見てるんです。これも、映画ラストに繋がっていきます。

街の灯

この教会のシーンでは、「愛とはいい絵を台無しにすること。すごい絵を描くために」というセリフで、アスターは手紙の主がエリーであることに気づくんです。

そしてここで重要なのが、エリーとお父さんとポールが一緒に見た最初の映画チャールズ・チャップリンの傑作サイレント映画「街の灯です。

「街の灯」を簡単に話すと、貧しい浮浪者のチャップリンが街角にいる花売り娘に一目惚れする所から始まります。この女性は盲目で、チャップリンを金持ちの紳士と勘違いしてしまいます。チャップリンは金持ちを装い、何度も花を買い献身的になっていきます。彼女の病気を治すため、何とかお金を工面し彼女に手術できるようにしてあげます。しかし女性は、チャップリンがお金を出してくれた人だとは思いませんでした。目が見えるようになったある日、彼女の前に一人の浮浪者の男が現れます。男を不憫に思った彼女は、一輪のバラと小銭を手渡します。すると、その手は今まで彼女を助けてくれていた恩人の手でした。彼女はチャップリンを見て言います。「貴方でしたの」

…泣けます。まだ見てない方は本当に是非。

お気づきでしょうがこの映画も、これまでの作品と同様に「ハーフ・オブ・イット」の根幹なんです。

そして、この「街の灯」はポスターのようにお金を工面するために賭けボクシングに参加し、ボロボロになりながらも娘のために戦うというシーンがあるんですが、それはあのシルヴェスタ・スタローンの傑作ロッキーの元ネタにもなっているんです!

クレイジー・リッチ!

この教会のシーンの後、エリーの家ではお父さんが餃子を作っていますエリーをグリネル大学に行かせるために。自分のようにはならず、母のような、若く面白く楽しい人になってもらいたいから。口数の少ない父の愛に思わず気恥ずかしくなり、エリーが軽口を叩くのもクスリとしますね。

ここの物事を多く語らず、料理を一緒に作ることで愛を伝えるのは、ハリウッドで特大ヒットをしたアジアン・ハリウッド映画「クレイジー・リッチ!」のニックの家での餃子のシーンを彷彿としますね。静かで厳かながら、家族だからこそできる愛の伝え方です。グッとくる良いシーンです。

ハーフ・オブ・イットとは

この映画は、冒頭にも語られるように恋愛ものでもなく望みが叶う話でもありませんラブコメなのに、誰も結ばれません自身の片割れとも出会えてません。では、悲しい話なのでしょうか。そうじゃありません。

彼らは本当の自分に出逢えたんです。ポールは自分のレシピでソーセージを作ることを家族に伝えます。アスターも美女グループや話の合わない彼氏と別れ、美術学校に行くことを決めます。エリーもグリネル大学に進学することを決めます。本当の自分に辿り着いたからなんです。まさしく「The Turning Point」なんです。

ハーフ・オブ・イットというのは、失ってしまった自身の片割れの相手のこと。その相手は、かつては自分だったもの。つまり、本当の自分を探すことだったんです

ここで注目してもらいたいのが、あのドライブのシーン。ここでエリーとアスターは温泉のようなところにいて、水面から顔半分だけ出し浮かんでいるシーンがあります。エリーもアスターも、もしかしたらこの相手が自分のハーフ・オブ・イットだと感じているかもしれません。

しかし、注目してもらいたいのはその水面。そこには、反射したそれぞれの顔が、まるで円のようになっています。まさに最初の、プラトンの「饗宴」のハーフ・オブ・イットの説明に出てきた、かつての人間の様。しかしそこに映ってるのは、自分の顔なんですしかもこの場面のセリフで「山場ベスト・パートだ」とも言っています。つまり、この時点で語られていたんです。探し求めるべきは失った片割れではなく、本当の自分だったんです

だからこそ、エリーとアスターのキスシーンは素晴らしいんです。「日の名残り」のように心を隠すんじゃなく、本当の自分として相手に好きだと伝えたんです。

だからこそ、エリーの乗った電車をポールが追いかけるのは感動するんです彼が追いかけたかったから。許せなかった同性愛も乗り越えて、彼女の親友であることを示すために。電車を追いかけるのをバカにしていた彼女の心をほぐすために。思わず涙してしまうエリー。もう最高です。映画的な感動です。

そして最後、エリーは電車で他の人たちを見るんです。「地獄とは他人だ」ったエリーが、他人を見ているんです。乗客たちは皆、窓の外を見ています。監督のインタビューで、エリーは他の人たちもハーフ・オブ・イットを求めているんじゃないかと思っている、と答えられています。

辛く苦しい経験を通して、エリーは他の人たちにもそれぞれ人生があることを知ったんです。他人は地獄ではなかったんです。

最後、エリーは窓ではなく真っすぐ前を向いています。「卒業」もそうでしたね。彼女の人生はまだまだこれからなんです。

「面白いのはこれから」なんです。

 

最後に

いかがでしたでしょうか?

今回は「ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから」の、感想と解説と考察でした。

是非とも、鑑賞のお供にしていただければ幸いです。初見で何も知らずに見ても非常に面白いんですが、これだけの背景を知って観ると、さらに奥深くなりますね

ひょっとしたら音楽も何かしらあるかなと思ったんですが、今回は映画と文学を全部まとめました。あと、音楽あんまり詳しくない

映画の感想等ありましたら是非ともお聞かせください!あと、「Ek Villain」についても(笑)

それでは最後までご覧いただきありがとうございました!

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